KYOTO Art Gallery 百代 HAKUTAI

 すみや亀峰菴でのアートルームプロジェクト「呼風」は、ロビーを兼ねたアートギャラリー「百代」での鉄の隧道から連なる設計となっている。プライベートな空間に入ると出迎える隧道は、天と地、生と死、形而上と形而下のような対概念を表象しており、アートと一体となった非日常空間を体験していただくことをコンセプトとしている。

The guest room KOHOO at Sumiya-Kihoan is a continuation of the iron passageways of gallery Hakutai. Within the room these pathways come to represent the contrasting concepts of heaven and earth, life and death, physical and metaphysical, offering guests an extraordinary experience unified through art.

Outline

現代アートと伝統の技が織りなす体感型客室

 「呼風」は、世界的に活躍する現代美術家・柳幸典氏の作品世界を、一晩滞在しながら体験していただく、露天風呂付きスイートルームです。

 ロビーと共通する鉄製の扉を入ると、柳作品の象徴とも言える回廊が出迎え、その先には、柳氏のコンセプトを体現した、対となるベッドルームとダイニングルーム、2つの独創的な露天風呂が用意されています。温泉をお楽しみいただくとともに、アート作品の一部となるかのような感覚を体験していただくことができます。

 陶芸家石井直人氏、帯匠十代目山口源兵衛氏、左官職人久住章氏、和紙職人ハタノワタル氏ら、京都・丹波を拠点に伝統の技を振るう作家・職人たちと、柳氏との協働によってつくりあげられた現代アート作品としての空間で、料理長細井久仁彦によるお料理とともに、唯一無二の宿泊体験をお愉しみください。

Concept

Art Room 呼風
柳 幸典

 すみや亀峰菴でのプロジェクトは、旅館という宿りのための日本の伝統的空間と現代美術の融合という試みである。

 旅人達を迎え入れるロビー兼アートギャラリー「百代」からアートと一体となったプライベートな客室「呼風」までを内と外、天と地、を表象する隧道でつなげるという構想で始まった本プロジェクトは、李白の詩「夫れ天地は万物の逆旅にして、光陰は百代の過各なり」の一節、そしてギリシャ神話でのイカロスが幽閉されていた迷宮から着想を得ている。

 「百代」から続く鉄板による重厚な扉を開くと、天に向かう隧道と地に向かう隧道が過客(旅人)を迎える。

 天を表象する客間は空(くう)をイメージする透明でミニマルな水の立方体の浴槽によるプリズムからの虹が視覚的な天を表現している。洋間の菊の作品の壁とイカロスの回廊の壁は和紙職人・ハタノワタル氏にお願いした。

 対する地の表象としては、陶芸家・石井直人氏による登り窯の1200度を超える高温で焼かれ変形した破れ壺を、壺の裂け目から揺らめく焔とともに天に対峙させた。加えて左官職人・久住章氏による地に抱かれるような浴槽と、日没の前にひときわ焼ける夕日を思わせる土壁、そして裏山の木々の緑と鏡合わせに石井氏の織部釉の緑の陶板を壁にしつらえ、大地の生命感と死と再生の胎動を表現した空間となっている。

 そして、天と地の狭間の和室の客間には、帯匠・山口源兵衛氏によりインスピレーションされた若冲の菊花が配される計画である。

 禅語における「呼風」とは、風を呼ぶ力があるということから、不可思議な素晴らしい能力を持つ者についていう場合もあるとのことだが、まさしくそのような能力を持つ匠とのコラボレーションによる空間は、日本の伝統文化と現代美術が融合した新しい風を呼んでくれるものと願っている。そして天の間にしつらえた菊の紋様の壁と地の間にしつらえた日本刀による私の作品「菊と刀」から、現代の日本の再生の物語 — 天に近づきすぎて翼が焼かれ墜落するイカロス — について夢想していただけたなら、百代の過各をお迎えする逆旅としての本望である。

柳幸典による呼風のコンセプトスケッチ

Design: YANAGI + ART BASE

アートルーム呼風を支えた職人たち

 日本の文化や伝統を受け継ぎ『 和 』の作品や空間をつくってきた職人たち。アートルーム呼風では、現代アートとの融合において彼らが触媒として大きな役割を果たしました。- 呼風 こふう  の名の通り新しい風を吹き込み、古来から伝わる技を未来へ繋ぐ。本物の職人たちに支えられ、旅館におけるスイートルームの新しい形が出来上がりました。